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1月19日 イベントレポート[森淳一×小田原のどか(彫刻家、彫刻研究)]

1月19日(日)に、森淳一さんと小田原のどかさんのアーティストトーク「長崎と彫刻をめぐって」が開催されました。

一部抜粋となりますが、イベントレポートです。

トークイベントや雑誌の掲載の依頼について聞かれるのが「なぜ彫刻を選択したのですか?」というものがよくあります。いつもこ答えに困っていて、選択した理由が見つかりません。彫刻を30年近続け、きっかけはどこにあるのか、いまだに振り返り、過去の記憶を辿ります。長崎で過ごした18年の時間というのは、よく見たり考えていたので、どこかに何かあるはずだと思っています。振り返る中で「平和祈念像」などの彫刻が、長崎にどういう意味があるのかと問題提起をするようになり、近年の制作のテーマにするようになりました。

長崎の小学校では週に1回程度、原爆や戦争について教育を受けていましたが、遊び場になっていた場所の彫刻や神社などは、その意味を考えていませんでした。彫刻を始めてから「平和祈念像」に目を向けるようになりました。

大学受験では、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京藝術大学の絵画科に願書を出しました。しかし、受験勉強をしていなく、受験対策をする予備校もない中で、何も知らない状態で入試を受けていましたので、初めに受けた多摩美術大学の受験で、これはダメだと思い他の受験をやめてしまいました。長崎に戻り、高校の先生に相談をしたところ「絵画はすごい倍率、彫刻はその半分ぐらいだから、絵画はやめなさい」と言われてしまいました。

昨年の秋頃に井の頭公園にある北村西望の作品の修復の依頼を受けました。収蔵庫には、北村西望のまだ世に出ていない貴重な手書きのプロセスの資料がたくさん残されていました。作品がどのような意味を持っているのかなど今度研究をしていかなければならいという使命感を持ちました。

作品の素材に黒い陶を使っているのは、影としての黒と原爆投下直後の空間の温度、1000度を超えた空間を想像したときに窯の温度しか思い浮かびませんでした。そこに物質を投げ込んだ行為で何か見えてくるだろうと考えました。陶の作品は「影の黒」を意味しています。大理石の作品に関しては、光のモールド(鋳型)を想像して、何か物質を押し当てる行為をしています。光と影を同時に表現できる素材として大理石を使用しています。

《shadow-m》の作品について―
舟越直木さんのオマージュの作品です。昨年の春頃に平塚市美術館で開催された「空間に線を引く-彫刻とデッサン展」で舟越直木さんの作品がいくつか展示されていました。マリアを作っていたときもあって、舟越さんの木炭で描かれたマリアの作品が、形が浮かびあがっていて、何もつかもとしているか分からない手の痕跡、強いイメージを受けとってしまいました。作り始めたころは、ちゃんとした立体だったのですが、やっているうちにどんどん空洞になっていき、なくなってしまうと思い型をとりました。自分が作りたいと思ったのは、形ではなく影のかたちを手探りで作り続けていました。

《black drop》の2つの作品について―
半磁気の土の素材に丸いボールがのった作品です。被爆マリア像の目がなくなっていて、その空洞について考えることがありました。当初はガラスか水晶の目が入っていましたが、今はありません。なくなった眼球が見た光にとても興味があったことと、亡くなった人たちの最後の光が閉じ込められている球体をイメージして制作しました。